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美味しいものを自然体で提供したいと勝手に思ってる楽山若大将の気ままなブログ

煮蛤



   太一がこの街に出て5年が過ぎようとしていた。
   田舎の街に不満があったわけではない。
   なんとなく都会に憧れただけだ。
   大学受験には失敗したが専門学校に進学した。
  
   太一の父、徳三は小さなすし屋を営んでいる。
   田舎の街で本格的な江戸前寿司を食べさせてくれる店で
   特別流行っていたわけではなかったが根強いファンも多く
   太一の学費と仕送りぐらいは稼げていた。

   周りからはすし屋を継がないのか?とよく言われた。
   寿司は好きだったし、徳三のことを嫌っていたわけでない。
   ただ本当に都会に憧れただけだ。
   専門学校を無事卒業し、旅行会社に就職していた。

   仕事に慣れてくるとツアーであちこちの街にいけるのが魅力だった。
   楽しみになったのは、その町のすし屋に入ること。
   北海道には北海道の。
   北陸には北陸の。
   それぞれの美味い寿司がある。
   寿司を好きになったのは徳三のお陰だと思う。
   実家にいるころ、おやつ代わりでよく握ってくれた。
   やれ鉄火巻きだのお稲荷さんだの。
   いいマグロが入ったときなど脂ののった皮際の身で
   ネギトロなんかも巻いてくれた。
   それでも太一は徳三に、
   「すし屋になれ」
   と一度も言われたことはなかった。
   なれと言われれば拒む気もなかったが
   自分から後を継ぐとも言えなかった。

   その日は関西方面への帯同だった。
   ツアー客から開放され街に出る。
   小さなすし屋に入ることにした。
   いつものように特上の握りを注文する。
   太一のいつものパターンだ。
   値段も安心だしまず間違いないネタが入っている。
   関西のすし屋には珍しい江戸前の握りだった。
   「美味い」
   しっかりした仕事がしてあった。
   追加でおすすめを聞いてみる。
   太一より一回りぐらい年上の大将は
   「今日はいい煮ハマがありますよ」
   と勧める。
   煮ハマとは驚いた。
   江戸前ではこの時季の定番だ。
   頬張ると懐かしい味がした。
   徳三の煮ハマの味を思い出した。
   田舎で江戸前の握りを出している徳三。
   何か同じような匂いがした。
   大将と色々話をした。
   2代目で店を継いだこと。
   東京で修行したこと。
   亡くなった先代のこと。
   なんだか嬉しくなった。
   
   店を出てふと思った。
   「俺もすし屋になろうかな」
   徳三に言ったらなんていうだろう。
   鼻腔にまだ煮蛤の香りが残っていた。


   すし屋のカウンターには絆がある。

   煮蛤
   
   



   
   
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楽山若大将

Author:楽山若大将
すし割烹楽山の二代目です。趣味は美味いものを食べること、美味いものを作ること、野球(観る事、草野球)競馬(能書きだけで馬券をはずすのが得意)読書、落語鑑賞etc。

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