同窓会なんて何年ぶりだろう。中学、高校の同窓会の案内は時折あったが大学の同窓会なんて卒業して以来じゃないかとぼんやり考える。
日付は3ヶ月後の日曜日だった。特に予定もないし、出席することにした。ついでに東京の息子の顔でも見てこようか。
同窓会の会場はキャンパスがあった場所からそう遠くないホテルだった。20数年も経つとすっかり風景が変わっていた。真弘が通っていたキャンパスは移転してもうないし、授業をサボって入り浸っていた喫茶店は小さなビルになっていた。
会場に着くと、男1人と女2人が真弘を見つけて手を振ってきた。
懐かしい顔だ。吉田雄二、荒木仁美、島内百合子。
まだちゃんと名前を覚えていたのに、驚いた。
「安ちゃん、久しぶり!」
少し白髪交じりの髪で吉田が握手を求めてきた。仁美も百合子も続いて手を差し伸べた。
確かに20数年の月日は感じるけど、皆、それぞれあの頃の雰囲気は残っていた。
真弘と3人は一時期、短期のゼミで一緒だった。吉田は2浪してたから歳は2つ上、もうすぐ50歳になるはずだ。
「みんな、変わらないなぁ。俺はちょっと禿げたけど」
真弘は自虐的に言った。
「しょうがないわよ、みんな同じように歳はとるんだから。私だって老眼で眼鏡が手放せない」
仁美が言う。
「私もあの頃より10キロ太ってさ、ただのおばさんよ」
百合子も続く。
久しぶりの再会で昔話に花が咲いた。
あの頃はバブル景気で真弘たち大学生も結構裕福に暮らせた。百合子は日本中央競馬会でアルバイトしてて、下手な日雇いより稼いでいたし、仁美も家庭教師やら塾の講師でなかなかのバイト料を貰っていた。真弘も吉田も親からの仕送りプラスバイト代で新卒のサラリーマンより余裕はあったと思う。
「そういえばさ、覚えてる?月一寿司会」
吉田が思いついたように言いだした。
4人は無類の寿司好きだった。誰が言出屁だったか忘れたけど、月に一度、4人で寿司屋に行こうという会だ。
「覚えてる。覚えてる。百合ちゃん、トロが大好きだったんじゃない?」
百合子は大のトロ好き。吉田は光り物、仁美は玉子、真弘は穴子に目がなかった。
「同窓会の料理、大した事ないしさ、久しぶりの月一寿司会、やらない?」
百合子が言う。
「いいねぇ。今から近くの寿司屋、探そう」
吉田がスマホで検索しはじめた。
歩いて10分ぐらいのところに寿司屋があった。4人が大学生だった頃はまだなかったと思う。暖簾をくぐり、店の中に入る。こじんまりして清潔感のある店だった。大将らしき人にテーブル席があるかと聞いてみた。店の奥の4人掛けのテーブルに通された。
「そうそう、こんな感じの店が多かったね。カウンターは敷居が高いし、4人じゃ話ずらいから」
仁美が周りを見回しながら言った。
瓶ビールを注文して4人で乾杯した。つまみは取らず、大将におまかせで4人前の握りを注文する。
「今でも、みんな寿司は好きなの?」
真弘が切り出した。
「もちろんだよ。田舎に帰って就職したんだけど、東京でそれなりの寿司食べただろ。俺の田舎、いい寿司屋がなくてさ、店を探すのに苦労したよ。でも10年ぐらい前だったかな。出前中心だった寿司屋の息子が東京の寿司屋で修行して帰ってきたんだ。これがなかなかの腕でさ、今はその店に月一ぐらいで通ってるよ」
吉田が鯖の握りを頬張りながらしゃべる。
「今でも月一なんだ。私も今でもお寿司は大好き。お寿司屋さんにお嫁に行きたいぐらいだったもん、適齢期すぎちゃったけど」
仁美が笑って話した。
「私も大好き。だからこんなに太っちゃった」
百合子が首を竦めて言った。
「ゆりっぺは昔からよく食べた」
真弘が穴子を食べながら、ボソッとつぶやく。
「安藤くん、そういうとこ昔と変わんないね」
百合子が軽く睨む。
「でも、不思議だなぁ、俺たち。寿司が好きで集まってさ。それぞれ生き方が違ってて、20年経ってまた寿司でつながった。寿司ってそういう食べ物かもしれないな」
吉田が3本目のビールを注文した。
「ねぇねぇ、せっかく再会したんだからさ、月一寿司会、復活しない?」
仁美が、身を乗り出して言いだした。
「おいおい、みんな遠くに住んでんだから厳しいだろ、月一は」
真弘が遮る。
「安藤くん、そういうとこ、変わってないね」
百合子が言う。
「じゃあさ、4ヶ月に一回でどうだろう。それぞれ幹事になって、みんなの行きつけの店でもいいじゃん。それぞれの街にそれぞれの寿司があるだろうから。4ヶ月に一回、一泊して寿司食うぐらいに余裕はあるだろ」
昔から吉田は話をまとめるのが上手い。
「いいねぇ、それ。私賛成」
百合子が手を上げた。
「私も!安藤くんはどうなの?」
「別に、断る理由はないよ」
「そうそうとこ、昔から変わんないね」
4人で笑った。
人と人、過去と未来を繋げる寿司。
なんて素敵な食べ物なんだろう。
いつまでも、いつまでも、この寿司という文化がずっとずっと繋がっていくのを楽しみにして、4ヶ月を待とうと真弘は思った。
