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美味しいものを自然体で提供したいと勝手に思ってる楽山若大将の気ままなブログ
10年なんて月日はあっという間だ。
それでも10年でいろんなことが変わっていく。
大輔は有希乃が店を出したのを人伝に聞いた。
夢を叶えた有希乃に会いたかったけど、どの面を見せていいのかわからなくて躊躇していた。
15年前、大輔と有希乃は付き合っていた。食品会社に勤める大輔と料理好きな有希乃は気が合った。デートは専ら食べ歩き。
イタリアン、フレンチ、焼肉に居酒屋。中華も行ったし山奥の蕎麦屋にも行った。有希乃がとりわけ好きだったのが寿司だった。
高級店には滅多に行けなかったけど給料のほとんどを食べ物に使っていたと思う。
ある時、有希乃が言った。
「私、お店やりたいな」
「店って、飲食店?」
「そうだよ」
「有希乃がやるなら、洒落たカフェみたいなの?」
「ううん、お寿司屋さんやりたい」
大輔はびっくりして思わず吹き出してしまった。
女の子が寿司屋をやるなんて無理に決まっている。修行は大変だし、なにせ男社会だ。女性なんて受け入れてくれるわけがない。
有希乃がおもむろに取り出したのは寿司の学校のパンフレットだった。数十万で数ヶ月、寿司のことを学んで就職も斡旋してくれるという。
「面白そうじゃない?」
「まぁ、そうだけど、本気なの?」
こうと決めたらすぐ行動するのが有希乃の性格だった。半年間のカリキュラムを終え、寿司屋で働き始めた。休みも違うしお金を貯めるからと大輔の誘いにもあまり乗らなくなって、合うこともなくなった。メールもいつしか途切れ途切れになった。
大輔も新しい彼女を作ろうとしたが、なかなかそうはいかない。有希乃と一緒だった頃をよく思い出すようになっていた。
有希乃が働く姿を見たい。有希乃が握る寿司を食べてみたい。そう思いながら行動に移せなかった。
夏がそろそろ終わりを告げようとする時、思い切って有希乃の店に行く事にした。客としてじゃない、昔の友人として、夢が叶ったお祝いを言いたかった。
日本酒を手土産に店の前に立つ。目立った看板もなく、小さなお品書きが玄関の前にあった。扉を開けようとしたが鍵がかかっていた。女1人で仕事してるんだから当然かもしれない。磨りガラスの切れ目から覗くと仕込みをしている有希乃の姿が見えた。
扉を叩くと有希乃が気づいて、店の中に入れてくれた。
「久しぶりじゃない。元気?」
「おめでとう」
「何年経ってると思ってんの?」
有希乃が笑った。長かった髪はばっさり切られていて帽子の裾から刈り上げられたうなじが見えた。
お祝いの酒を渡すと有希乃は軽くお礼を言った。
「お寿司食べる?昨日の残りのネタだけど」
断る理由もなかったから大輔はカウンターに座った。
カウンターと奥の厨房の仕切りに暖簾がかかっていて薄い藍色に白地で「ゆき乃」と染め抜かれている。有希乃の好きな藍色だ。
有希乃は小気味よく握った。
白身に赤身、イカにウニ。
なんとなく男の職人が握った寿司とはちょっと違う感じがした。
コハダが出てきた。
頬張って飲み込むと大輔は思わず頷いた。塩も酢も実にいい塩梅だ。久しぶりに美味いコハダを食べた気がする。
コハダは漢字で「小肌」とも書く。
いかにも女性っぽいネタではないか。
大輔はまた有希乃とやり直したくなった。
「あれ、もうお腹いっぱい?」
「俺、店、手伝おうか?」
「ダメ、ウチのスタッフは女性オンリーなの」
有希乃は悪戯っぽく笑った。
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プロフィール

楽山若大将

Author:楽山若大将
すし割烹楽山の二代目です。趣味は美味いものを食べること、美味いものを作ること、野球(観る事、草野球)競馬(能書きだけで馬券をはずすのが得意)読書、落語鑑賞etc。

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