週末はお客の引けも遅くいつも明け方。
酔客相手の商売も楽じゃない。
ほろ酔い加減で帰ろうとしたら
姉さんに声をかけられた。
08年の秋のことだった。
「あんた、暇なら付き合わない?」
「どこにですか?」
「府中よ。競馬場。天皇賞」
いつか私がスポーツ紙の競馬欄を見ていたのが
気になっていたらしい。
田舎にいたころは福島競馬場に行ったことはあったけど
東京に出てきてからは競馬とも疎遠になっていた。
始発が出るまで姉さんとファミレスで時間をつぶす。
ゆっくり話すのは初めてだったかも知れない。
女優を目指して北海道から出てきたこと。
男にだまされ金を持ち逃げされたこと。
頭にきたお客に水割りをぶっかけたこと。
姉さんは淡々と話してくれた。
「あんた見てると、おんなじ臭いがすんのよねぇ」
煙草の煙を燻らせながら姉さんは微笑んだ。
競馬場に着き指定席でしばらく眠る。
姉さんが言った。
「この子達、北海道で生まれて競走馬になって
知らないターフを駆け抜ける。他人とは思えない」
私はそんな感覚わからなかったけど
この日は姉さんの話に頷くことに決めていた。
天皇賞(秋)府中の2000m。
牝馬の2頭、ウオッカとダイワスカーレットが
人気を分け合っていた。
「どっちを応援する?」
「姉さんは?」
「きっと逃げるからスカーレット、
あたしも逃げたい、現実から」
2人で単勝馬券をごっそり買った。
秋の木漏れ日の中スタートが切られた。
予想通りダイワスカーレットがハナを切る。
ウオッカは中段のやや前につける。
姉さんは何も言わずジッとみていた。
昔あった情熱を思い出していたんだろうか。
ダイワスカーレットが4コーナーを先頭で回る。
大歓声が起きたけど姉さんは黙っていた。
リードが徐々になくなる。
外からウオッカとディープスカイが来る。
合わせ馬のようだった。
そして
ウオッカとダイワスカーレットが並んでゴールした。
「残ってないな」
一瞬の静寂の中、姉さんが呟く。
「残ってますよ!」
興奮気味に私がいう。
判定の結果ハナ差でウオッカだった。
「まるであたしみたいじゃん、
でも、いいレースだったね」
姉さんはその後しばらくして故郷の北海道に帰った。
東京に情熱と静寂を残して。
G1 天皇賞(秋) 10月30日 東京競馬場 芝 2000m
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