実家の寺を継ぐのが嫌でとにかく家を出たかった。
東京の大学は全部駄目で
合格したのは滑り止めに受けた京都の大学だけ。
寺ばっかりのこの街を好きにはなれなかった。
それでも卒業してこの街で就職した。
少し好きになったのは競馬場がある町だったから。
淀のターフの風景が時に
沈んだ気持ちを癒してくれた。
それでも時々、実家のことは思い出していた。
年老いた親父が檀家回りもしんどそうだと
妹から聞いていた。
09年の菊花賞。
大学時代の友人と出かけることにした。
友人は京都の古い料理屋の5代目だった。
大学を出て老舗の料亭で修行をし
実家を継いでいた。
「お前は、寺、継がんのか」
「坊主が嫌で家をでたんや」
といいながらお坊さんとすれ違うと父を
思い出すようになっていた。
馬柱を見る。
「菊花賞は血統や、ダンスの仔で勝負や」
指差す先は
ダンスインザダークの仔
スリーロールスとフォゲッタブル。
「そんなにうまくいくか」
友人の顔は自信に漲っていた。
スタートが切られた。
リーチザクラウンが大逃げを打つ。
でも僕はレースより親父のことを考えていた。
故郷の町は坂が多く、自転車はつらい。
袈裟姿で自転車は60過ぎにはつらいはずだ。
馬群がホームストレッチにくるのがわかる。
長丁場の菊花賞に大歓声が沸く。
潮時かな、とも思った。
気がつけばレースは3コーナーの坂を下り
直線に向いてきた。
リーチザクラウンの差はほとんどなく
スリーロールスとヤマニンウイスカーが追ってくる。
大外からはセイウンワンダー。
そしてフォゲッタブルも抜けてくる。
ゴール前叩き合ったのは
ダンスの仔、2頭だった。
「やっぱりな」
「俺、決めたわ」
「何が?」
「家を継ぐ。坊主になるわ、頭は丸めんけど」
「お互い、宿命やな」
「菊花賞馬、ダンスの仔は菊花賞馬やな」
宿命を背負った僕たちは笑って握手をした。
また、今年も菊花賞の季節だ。
今年は京都に行ってあいつの料理と
淀のターフを楽しもう。
G1 菊花賞 10月23日 京都競馬場 芝3000m
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