師走になると毎年仕事に追われる。
まして、その年はチーフが風邪でダウンして手が足りなかった。
最後の日曜日、昔ともに働いた後輩に助っ人を頼んだ。
腕は確かだが如何せん喧嘩っぱやい。
その頃も勤めていたオーナーシェフと揉め無職状態。
でも僕の前ではいつも従順な奴だった。
遅めのランチを取り休憩室に入る。
ひと寝しようと思ったのだが後輩がテレビをつけていいかと聞く。
競馬中継だった。
「お前、いつから競馬してるんだ?」
「先輩と別れてからですよ。次の店に好きな人がいて、その影響です」
この日は03年の有馬記念。暮れの大一番だと言う。
子供の頃、祖父の家に行くと中継をやっていた記憶はあるが
まともに観るのは初めてだった。
「賭けてんのか?」
「ええ、クリスエスには勝たせたくないですけど」
訳がわからなかったが観ることにした。
ファンファーレが鳴る。中山競馬場はすごい熱気だ。
スタートが切られた。
冬枯れの中山競馬場にサラブレッドが走る。
冬の西日に照らされた競走馬たちを美しいと思った。
ザッツザプレンティがレースを引っ張る。案外長い。
「何メートル走るんだ?」
「有馬記念は2500メートルですよ!」
後輩の語気が強まる。
4コーナーを回ってリンカーンが抜け出そうとしていた。
すると緑の勝負服が抜け出してくる。
シンボリクリスエスだった。
先頭に立った彼は次元の違う強さで9馬身突き放してゴールした。
隣で馬券を外した後輩が悔しがる。
僕はいいものを魅せてもらった気がした。
サラブレッドの美しさと男の浪漫と。
「おい、来年から俺も馬券買ってみるよ」
隣にいた後輩はまだ悔しがっていた。
G1 有馬記念 12月25日 中山競馬場 芝 2500m 一宮 寿司 すし券 でら吟 宴会 忘年会 新年会 接待 法事 慶事 大間マグロ 鮭児 弁当 出前
久しぶりに皆で競馬場に行こうという話になった。
08年のジャパンカップダート。
この年から阪神競馬場に舞台が移された。
「あの頃、こんなG1レースなかったよな」
あの頃…
僕たちは学生で夏は海にテニス、冬はスキー。
大人たちはバブルの景気に溺れていた。
競馬場にもよく行った。
オグリキャップにタマモクロス、
僕たちのアイドルだった。
誰と誰が付き合ってたとか
子供の進学の話とか女房の愚痴とか。
まるで、あの頃のように話が弾んだ。
「ところでやっぱりヴァーミリアンか?」
「そうだろ、あっさりG16勝?」
僕は応える。
「カネヒキリ」
「あん?もう終わったんじゃねぇ?前走惨敗だぜ」
「わからんぞ、復活するかも」
確信が持てたわけじゃないけど頑張って欲しかった。
屈腱炎から復帰したカネヒキリ、もう一花咲かせて欲しかった。
冬空の下、スタートが切られた。
何年ぶりだろう、こいつらと競馬を見るのは。
カネヒキリは先行策だ。
「よし、ついてけ」
心の中で呟く。
誰かが「ヴァーミリアン」と叫んでいる。
直線を向くと大外からヴァーミリアンとメイショウトウコンが
並んで迫ってきた。
カネヒキリはやっぱり伸びないのか。
すると、祈りが通じたのか彼の馬体が前に出る。
1馬身ほど抜け出したが3頭が併せ馬のようになった。
そしてカネヒキリは頭差でしのいだ。
「おい、お前の言うとおりだったやん」
「まあな」
僕はホッとしたような嬉しいような。
「そういえば、最後の学生スキー大会、
お前、怪我明けで優勝したっけ」
「記憶力、悪いな、相変わらず」
皆で笑った。
「おい、今年の冬は久しぶりに山、行こうか」
復活のカネヒキリが冬の約束までプレゼントしてくれた。
G1 ジャパンカップダート 12月4日 阪神競馬場 ダート 1800m
一宮 寿司 すし券 でら吟 宴会 忘年会 新年会 接待 お節 法事 慶事 大間マグロ 鮭児 弁当 出前
ずっと思いを寄せていた彼女にふられた。
自信のあった片思いの寂しい結末だった。
06年のジャパンカップ、府中にいった。
その年凱旋門賞でまさかの失格をくらった
ディープインパクトが出走していた。
勝てると思われていたディープ
よもやの失格で傷心してはいないだろうか?
なんだか自分と照らし合わせた。
そういえば彼女は競馬、興味あったんかな?
話したことはなかったけど
ディープインパクトは知ってるだろう。
このメンバーならきっと勝てると思った。
彼が傷心していなければだ。
スタートが切られた。
いつものようにディープは後方へと位置取りを下げる。
「いいんだ、それで」
いつものように泰然自若と。
コスモバルクが引っ張るがゆっくりとした流れだ。
「俺は大丈夫」
3コーナーから徐々に動くと直線では
やっぱりいつものディープインパクト
前を行く馬たちを次々に抜き去り
堂々1着でゴール版を駆け抜けた。
彼は傷心なんてしていなかった。
僕はどうだ。
失恋したぐらいで落ち込んで。
凱旋門賞の不名誉を見事1番人気で制した
ディープインパクト。
僕もまた新しい恋をしようと思った。
G1 ジャパンカップ 11月27日(日) 東京競馬場 芝 2400m
一宮 寿司 すし券 でら吟 宴会 会席 接待 忘年会 新年会 お節 鮭児 大間マグロ 法事 慶事
この街を離れる前に京都競馬場に立ち寄った。
09年のマイルチャンピオンシップ。
この年、秋の天皇賞を制した
8歳馬カンパニーが人気していた。
1ヶ月前のことだった。支店長に肩を叩かれ
「福岡に行ってくれんか」
と、いわれた。
我が社の福岡支店はお荷物支店で業績が最悪で
誰もが顔をしかめる支店。
支店長としての辞令だが社内では
左遷ともささやかれた。
「まだ、俺はくたばっちゃいない」
そう言い聞かせながらカンパニーを応援したかった。
8歳にしてG1を制しここでも1番人気。
自分とはかけ離れた立場だったが
老友みたいな気がしていた。
スタートが切られる。
マイネルファルケとキャプテントゥーレがレースを引っ張る。
カンパニーは中団の位置でにつける。
実に悠然と走っていた。
「俺もバタバタしちゃ駄目だな」
思わず笑みがこぼれた。
4コーナーを回って直線、カンパニーのエンジンはまだだ。
マイネルファルケが先頭を走る。
直線半ばでカンパニーに鞭が飛ぶ。
弾けるように抜き差って先頭に立った。
8歳の老友がG1を連勝した。
なにか誇らしかった。
これから戦地に赴く俺をカンパニーが
後押ししてくれたような気がした。
ありがとうカンパニー。
陽は傾けど俺は明日を照らすよ。
マイルチャンピオンシップ G1 11月20日 京都競馬場 芝 1600m
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祖父から3代続いていた店だったが経営は最悪になっていた。
遊び呆けていたわけではないが自分のせいだ。
資金繰りに苦しみ生活費にも追われた。
中国と日本を股にかけてビジネスを展開する友人に言われた。
「辞めちゃえばいいじゃん、うち来る?」
一瞬、ぐらっときたが首を振る。
「あかん、老舗の暖簾はおろせん、意地や」
逃げたくはなかった。
09年のエリザベス女王杯。
競馬なんてやる余裕はないはずなのに京都競馬場に立ち寄った。
牝馬3冠を取り逃したブエナビスタを見るためだ。
秋華賞に負けここは必勝体制。
スカッと勝つブエナに元気をもらおうと思った。
順調にいっていたころを思い出す。
まだ父も元気で母も健在だった。
それに甘えて俺は何をしてたんだろう。
後悔の念が襲う。
なにかこう、もやもやしたものを晴らしたかった。
スタートが切られた。
曇り空の下、牝馬が走る。
先頭に立ったのはクイーンスプマンテだ。
テイエムプリキュアがそれに続く。
ブエナビスタは後方に控えていた。
ブエナ、いつ動く?
逃げる2頭がどんどん隊列を引き離していく。
ブエナ、どうする?
まるで自分を問い詰めているようだ。
気がつけば15馬身は離れている。
ブエナ、大丈夫か?
第3コーナーの坂の頂上でブエナが動く。
「よし、行け!」
思わず声が出た。
しかし先陣を切った2頭は遥か前だった。
場内がどよめき始めた。
直線を向いたがまだ10馬身以上はある。
逃げる2頭をブエナビスタが懸命に追いかける。
そして見事クイーンスプマンテが逃げ切り
首差しのいだテイエムプリキュアが2着。
ブエナビスタは3着だった。
信じられなかったがはっとした。
逃げてもいいんだ。勝つなら。
とどまって苦しむなら逃げて勝負してもいいじゃないか。
携帯を手に取り、奴に電話した。
G1 エリザベス女王杯 11月13日 京都競馬場 芝2200m
一宮 寿司 すし券 でら吟 お節 接待 忘年会 新年会 鮭児 法事 慶事 結納 記念日 誕生日